賃貸オフィスコラム
オフィス選びの新時代!ビル業界で加速し始めた「再エネ電力」導入の動き
脱炭素社会にSDGs…長年叫ばれてきた環境問題が、ここに来て佳境を迎えています。
日本では、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原発事故によって、原子力発電の安全性を問う声が高まったことから、石炭火力発電を推進、2016年にパリ協定を批准したものの、石炭火力発電による二酸化炭素の排出がネックとなり、「地球温暖化対策に消極的」と諸外国から批判されることになりました。2020年になって政府は「石炭火力発電の段階的な縮小」や「2050年までの温室効果ガス排出ゼロ目標」を打ち出すなど脱炭素化へシフト、2021年には「再生可能エネルギーを普及させ主電源化を徹底」との目標を掲げるなど、本腰を上げて取り組むようになりました。2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行、更には2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料の供給網が大混乱するようになったことから、再生可能エネルギーへの注目度は更に高まっています。
2015年に国連で採択されて以降、日本国内で認知度の低かった「持続可能な開発目標(SDGs)」が2020年頃から経済産業省や経団連など官民一体となって推進され、その一環として再生可能エネルギーの利用促進が挙げられています。各企業においても脱炭素化への取り組みが加速しており、特にオフィス内で使用する電力の見直しが有効と考えられています。その中には、単に節電するだけでなく、太陽光や風力、バイオ燃料といった再生可能エネルギー由来の電力を使用することで、事業活動における二酸化炭素排出量を削減しようという動きも高まっています。
そして昨今、各企業における再エネ電力の需要の高まりを受け、賃貸オフィスビルでも再エネ電力を導入するところが増えてきています。オフィスビルで使用される電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えることで、入居するテナント企業はオフィスで使用する電力を100%再生可能エネルギー由来にすることができるようになりました。大企業が所有する自社ビルでは太陽光発電などが既に導入されているものが多かった一方、それに比べて後れを取る形で普及し始めた、賃貸オフィスビルにおける再エネ電力導入の動きについて、解説します。
賃貸オフィスビルにおける再エネ電力導入の経緯
二酸化炭素を排出する業種と聞かれて、何が思いつくでしょうか?一番イメージしやすいのが、煙突からモクモクと煤煙を吐き出している工場などの重化学工業かもしれません。確かに、環境省の発表によると、2020年度の二酸化炭素排出量(電気・熱配分後)を部門別にみると、工場などの産業部門が全体の34%を占め最も多くなっています。それでも、三重県四日市市や神奈川県川崎市の例に代表されるような大気汚染による公害が相次いだ、高度経済成長期より二酸化炭素排出量は減少しており、1990年度の約5億トンから2020年度は約3.5億トンと約3割も削減しています。
一方、商業施設やオフィスビル、事務所やサービス業から排出される二酸化炭素の量は、1990年度の約1.3億トンから年々増加、2013年度に約2.3億トンまで増加しピークを迎えた後は年々減少していますが、2020年度には約1.8億トンと、1990年度と比較して4割弱増えている計算になります。部門別には業務その他部門に相当しますが、近年では自動車などの運輸部門とさほど変わらず、工場などの産業部門に次いで二酸化炭素排出量の多い部門の一つとなっています。
工場や家庭のみならず、オフィスビルに入居する各企業や、中小の事務所・サービス業も、二酸化炭素排出量の削減に取り組むことが、喫緊の課題となっています。
賃貸オフィスビルにおける再エネ電力導入の障壁と打開策
大企業が保有する自社ビルであれば、例えば屋上に太陽光発電パネルを設置するなどして自前で電力を確保することで、再エネ電力を使用することができます。一方、テナント企業が入居する賃貸オフィスビルの場合、ビルを運用・管理する所有者(不動産会社やオーナーなど)と、実際に電気を使用する利用者(入居する企業)が異なるため、テナント企業側が再エネ電力への切り替えをしたくても一筋縄ではいかず、賃貸オフィスビルにおける再エネ電力導入の動きは鈍いものでした。
その状況を打開すべく動き出したのが、大手不動産会社でした。入居するテナント企業のみならず、自社と併せて双方の脱炭素化を加速すべく、大手不動産会社では保有する賃貸オフィスビルへの再エネ電力導入を急いでいます。
三菱地所では、2021年度中に東京・丸の内を中心に同社が保有する19棟の賃貸オフィスビルを再エネ電力に切り替え、東京都内・横浜市内に同社が保有する約50棟の賃貸オフィスビル全てで導入する予定です。「RE100(企業が事業で使用する電気を100%再生可能エネルギーとすることにコミットする協働イニシアチブ)」に加盟し、2050年までに再エネ電力比率100%を目標としています。同社の再エネ電力比率については、既に2021年度時点で30%程度、2022年度の切り替えで50%程度まで達する見込みで、目標を大幅に上回り前倒しで達成する見込みとなっています。
東急不動産では、2022年に自社単独保有のオフィスビル・商業施設66件全てで使用する電力を再エネ由来に切り替えるとしています。同社は既に再エネ事業「ReENE」に取り組んでおり、この強みを生かして、同社保有の再エネ発電所から再エネ由来電力を同社保有のオフィスビルや商業施設に供給するというスタイルを取っており、既に2021年4月から東京・渋谷を中心に同社保有物件で再エネ電力に切り替えるなど、積極的に再エネ電力を導入。不動産会社の中ではいち早く「RE100」に加盟した同社は、事業活動に使用する電力を100%再エネ由来とする目標を、当初2050年までに達成としていましたが、昨年の時点で達成目標を2025年に大幅に前倒ししました。2022年中に自社単独保有物件全てで使用する電力を再エネ由来に切り替えることで、RE100の目標達成に向けて大きく推進することになります。
三井不動産では、2030年度までに同社が保有する首都圏の施設の共有部および同社利用部で使用する電力のグリーン化(実質再エネとすること)をするとしています。先行して2022年度末までに東京ミッドタウンの他、東京・日本橋を中心に同社保有の25棟で使用電力をグリーン化し、専有部においても入居するテナント企業の電力グリーン化計画に応じ、2021年4月より「グリーン電力提供サービス」を開始、各企業のニーズや方針に併せ、導入時期や割合について柔軟に対応するとしています。
住友不動産では、同社が保有するオフィスビルに入居するテナント企業のニーズや方針に配慮し、2021年11月に同社が提供を開始した「グリーン電力プラン」は、3つのプランからテナントごとに選んで導入可能な、業界初の制度となっています。①非化石証書を購入するプラン、②自前の発電所を用いて自ら消費するプラン、③新設した発電所からの生グリーン電力を使用するプランの3つです。
賃貸オフィスビルに再エネ電力を調達する方法
非化石証書、生グリーン電力…何やら難しい単語が出てきました。これらの用語について解説する前に、これまでの化石燃料発電と再生可能エネルギー発電の価値観の違いや、電力供給の仕組みを押さえておきましょう。
太陽光や風力、地熱やバイオマスといった再生可能エネルギーを用いた発電(及び核燃料のウランを用いた原子力発電)は、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を用いた発電と異なり、「資源が半永久的に枯渇しない」のみならず、「二酸化炭素を排出しない」という環境にやさしい点が考慮され、化石燃料発電よりも再生可能エネルギー発電の方が付加価値が高くなります(この付加価値は環境価値とも呼ばれます)。この再エネ発電によって生み出された電力のことを「グリーン電力」といいます。
特に、グリーン電力を発電所・発電設備から生のまま直接消費者に送っている場合、このグリーン電力を「生グリーン電力」といいます。オフィスビルの敷地内に太陽光発電パネルや風力発電の風車などの再エネ発電設備があれば、物理的にも生グリーン電力の100%利用が可能となりますが、ビルオーナーにとっては自前で発電設備や送電線を設置・維持するのはコストがかかります。そのため、敷地内に再エネ発電設備を設置するのではなく、各地の再エネ発電所から生グリーン電力を送ってもらえば良い、と考えるのは自然ですが、この場合は話がかなり複雑になります。
※経済産業省 会議資料より引用
ここで、日本の電力供給網について簡潔に説明すると、各発電所で生み出された電力が、変電所や送電線を経て、家庭や企業などの消費者(需要家ともいう)に送られます。2016年に行われた電力自由化の話も絡めると、発電する事業者と電気を売る事業者は新規参入が自由化されましたが、送配電を行う事業者は停電を防ぎ安定供給を行う目的から自由化されておらず、これまで通り政府が許可した各地域の電力会社(東京電力や関西電力といった旧来の一般電気事業者)が一元管理します。そのため、発電方法も設置した企業も異なる各発電所で生み出された電力は、全て同じ送電網に集約され、各消費者に分配されるという仕組みを取っています。
各地の再エネ発電所で生み出された電力も、各電力会社の一般の送電網を介し、各家庭・各企業といった消費者の元へ届きます(これを託送という)が、そうなると、せっかく再エネ発電所から送られてきたグリーン電力も、他の火力や原子力などの発電所から送られてきた電気と混ざって流れてくるため、実際消費者の元に届く電力が「完全な生グリーン電力」とは言い難くなります。これを回避するために取られている対策が主に2つあります。
①(30分)同時同量
1つは、30分単位など決められた時間で、再エネ発電所から送られてくる電気量と消費者側で使用する電気量を一致させる「同時同量」というもの。
事前に必要となりそうな電力を予測し、再エネ発電所から事前計画に基づいて電力を供給することで、一般の送電網を経由したとしても、生グリーン電力を供給したと見なすというものです。
三菱地所では、ENEOSや東京電力エナジーパートナー(TEPCO)、出光興産といった協力企業の保有する再エネ発電所から自社保有のビルへ、一般の送電網を介しつつ、直接グリーン電力を供給することで、生グリーン電力を受給しているとしています。
住友不動産では、3つのプランのうちの1つである「新設した発電所からの生グリーン電力を使用するプラン」において、契約に応じて新たに設置した再エネ発電所から生グリーン電力の供給を受けることで、日本の再エネ発電総量増加に直接寄与し欧米並みの高水準の脱炭素化に貢献するとしています。
生グリーン電力を文字通り自給自足することも可能になる一方、新たに自前の再エネ発電所を用意するなどで莫大なコストがかかってしまうデメリットもあります。
更に、再生可能エネルギー特有の欠点として、「供給量の不安定さ」があります。太陽光発電や風力発電は、日射量や風の強弱によって発電量が左右されます。もし事前に予測した需給バランスと実際の発電量・使用量の数値とでズレが生じると、送電網全体の需給バランスも崩れ他の電気事業者にシワ寄せが行くため、ペナルティの料金が請求される場合もあります。
他社と組合を組んで再エネ発電所を設置してもらうという手もありますが、費用負担について話し合う必要があるなど、ビルオーナーにとって導入へのハードルは高くなっています。
②非化石証書
もう1つは、先ほど紹介した再生可能エネルギー由来の発電ならではの「付加価値(環境価値)」を証書化した「非化石証書」というもの。
「非化石証書」は、非化石つまり化石燃料を使用しない再生可能エネルギー(及び原子力)を用いて発電された電力であることを証明する書類で、化石燃料に依らない発電方法ならではの付加価値(環境価値)を可視化・資産化した証書になります。
先述した電力供給の関係性に、売買取引関係を付け加えると、まず発電所で作られた電気を送電する電力会社が買い、各家庭・各企業といった消費者(需要家)に売ります(電力自由化により、送電する電力会社と消費者の間に小売事業者を介することもあります)。
非化石証書を取引できるようになったのは2018年と、電力小売自由化より後のつい最近のこと。非化石証書を購入できるのは、発電所から電気を買い消費者へ供給する電力会社(及び小売事業者)で、非化石証書を購入することにより、様々な発電所から送電網を介して供給する電力全体に、再エネ由来のグリーン電力から切り離された付加価値を上乗せすることができます。
その結果、たとえその電力会社が自前の再エネ発電所を一切持っていなかったとしても、供給している電力には再エネ由来の付加価値が上乗せされているため、”実質的に”再生可能エネルギー由来の電力を供給していると見なすこともできるようになります。
電力会社が非化石証書を購入すれば、「当社が供給する電気の〇〇%が再生可能エネルギー由来」といったアピールが可能になり、非化石証書による環境価値を組み込んだ料金プランを設定し売り出すこともできます。最終的に非化石証書の環境価値は電気を買う消費者に還元される仕組みなので、消費者側からすれば「実質的な再生可能エネルギー由来の電力を使うことで二酸化炭素排出量の削減に貢献している」と考えることもできます。
非化石証書の中には、どの事業者が所有するどこの発電所でどのような発電方法で生み出されたグリーン電力かという情報も付加した「トラッキング付非化石証書」や、再生可能エネルギーで発電された電気を電力会社が一定期間・一定価格で買い取ることを国が保証する「固定価格買取制度(FIT)」によって買い取られた電気であることを証明する「FIT非化石証書」など、様々な種類があります。
ただし、非化石証書は化石燃料を使用しない発電方法で生み出された電気の環境価値を証書化したものなので、再生可能エネルギーで発電された電気とは限らず、中には原子力発電由来の電気であることを証明する非化石証書なども存在します。原子力発電は所謂「核のゴミ」が発生することから環境負荷が少ないとは言い難く、当然ながら再エネ発電にも当てはまらないので、環境にやさしい再エネ由来の電力を使いたい場合は、電力会社がどのような非化石証書を所有しているか、確認しておきましょう。
東急不動産では、自社が再エネ事業「ReENE」に取り組んでいる強みを活かし、自社所有の再エネ発電所の「トラッキング付FIT非化石証書」を使用するとしており、テナントはこれまでと同様通常料金で再エネ電力を使用することができるとしています。
三井不動産では、自社が所有する再エネ発電所やTEPCOなど提携他社が所有若しくは契約している再エネ発電所の非化石証書を利用。FIT電源のみならず、非FIT・卒FIT(固定価格買取制度の期間が満了した発電設備で生み出された電気)の電源を幅広く用いることで、使用電力の実質再エネ化を加速したい考えです。
住友不動産では、先述した「新設した発電所からの生グリーン電力を使用するプラン」以外の2つのプランとして、既存の発電所・テナント企業が所有する再エネ発電所の非化石証書を利用するプランを展開。生グリーン電力とは異なるものの、高コストの再エネ発電所を新設するよりもコストを抑え、手軽にグリーン電力を使用することを可能にしています。
再エネ電力もオフィス選びの新基準に
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減に向け、各企業においてオフィスビルでも脱炭素化が叫ばれるようになった昨今、いかにしてそのニーズに応えていくかが課題となっていました。その解決策の1つとして、オフィスビルにおける再生可能エネルギー電力の導入が挙げられました。
敷地内に太陽光発電パネルなどの再エネ発電設備を所有することができる大企業の自社ビルと異なり、テナント企業が入居するタイプの賃貸オフィスビルでは、ビルオーナーとテナント企業との間で折り合いをつける必要があったり、高コストの再エネ発電の導入はビルオーナーにとって負担が大きかったりと、再エネ電力導入の動きは鈍かったといえるでしょう。その状況に、大手不動産会社が筆頭となることで風穴を開け、保有する賃貸オフィスビルにおいて再エネ電力を導入することで、自社とテナント企業の双方の脱炭素化を加速しようとしています。中には今後数十年以内に100%再エネ電力導入を目標に掲げているところも見られました。
二酸化炭素排出量の削減や再生可能エネルギーの推進に取り組みたい企業にとって、入居するオフィスビルが再エネ電力を利用しているかどうかは、非常に重要な意味合いを持ちます。地球環境問題や価格変動のリスクを受け高まる脱炭素化のニーズに、官民一体となったSDGsの推進や行政支援も相まって、ビルオーナーに対して再エネ導入を訴えかける企業や、新しく入居するオフィスビルを選ぶ際の基準の1つとして再エネ電力を念頭に置く企業が、今後増えていくことが想定されています。
また、コロナ禍で在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)が定着し、オフィスの必要性が見直されたことから、空室率が増えているオフィスビルのオーナーにとって、他の物件との差別化を図ることで空室率改善の糸口にしたいと思っているはずです。環境問題に取り組みたいテナント企業と、空室を埋めたいビルオーナー…時代背景を受け、両社の利害関係が一致すれば、賃貸オフィスビルに再生可能エネルギー由来の電力を導入する動きが更に加速するのではないでしょうか。
賃貸オフィス選びの新しい基準として、他の物件との差別化を図るための付加価値として、再生可能エネルギーが賃貸オフィスの業界でも注目されています。
その他オフィス選びの際の注意すべき点については、賃貸オフィスコラムにて掲載しておりますので、下のリンクから是非ご覧ください。
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