賃貸オフィスコラム
なぜトラブルになるのか?「原状回復工事」のルールとは
使ったものは元通りに戻す…借り物をした際には当然のごとく行うことですが、同じことはオフィスを引き払うときにも言えます。テナントを入居前の状態に戻す最後の仕上げ作業「原状回復工事」です。これは借主側に法律で義務付けられているものですが、この「原状回復工事」をめぐって貸主側とトラブルになることもしばしばあります。このようなトラブルはどうすれば避けられるのか、今回は「原状回復工事」のルールについて解説します。
原状回復義務とは
先述した通り、テナントを入居前の状態に戻す「原状回復工事」は、法律で借主に義務付けられています。
入居前の状態に戻すとは言っても、何から何まで綺麗さっぱり元通りに直すことは現実的ではないので、どこからどこまで修復するべきなのかは、その範囲が国土交通省が公開するガイドラインで制定されています。それによると、
”原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」で、その費用は賃借人負担とする一方、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。”
と書かれています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.経年変化
時間の経過とともに自然と劣化・損耗していくもの。時間の経過とともに古くなった空調設備など
2.通常の使用による損耗
常識的な使い方をしていても損耗してしまうもの。太陽の光が差し込んで色褪せてしまったカーペットなど
3.貸借人の故意・過失
誤った使い方や不注意が原因で損耗したもの。喫煙によって壁に染み付いたタバコの匂いなど
4.善管注意義務違反
常識的な対処をすれば防げたことをしなかったなどの管理不行き届きによって損耗したもの。結露によって発生したカビを放置した場合など
5.その他通常の使用を超えるような使用による損耗
常軌を逸した使い方によって損耗したもの。壁にされた落書きなど
つまり、1と2は時間経過や自然現象による劣化のため、常識的な使い方をしていても防げないものであることから、基本的には原状回復義務の範囲には含まれません。一方、3,4,5は借主の使い方次第では防げた損耗・劣化(意図的か不注意かは問わない)となるため、原状回復義務が生じます。
国が制定したガイドラインで、原状回復義務についてはある程度の線引きがされているにもかかわらず、退去時のトラブルが相次いでしまう理由はなぜなのでしょうか?
トラブルの要因①原状回復義務の範囲
実は上記のガイドラインは、賃貸住宅における原状回復義務を明白化しているもので、賃貸オフィスや店舗に関してはこの限りではありません。目的が居住ではなく事業である賃貸物件では、備品や内装については入居時に自前で用意することが多いですが、退去時にこれらを撤去・張り替えを行う必要があり、これが原状回復に当たります。
備品や内装については借主の嗜好や事業内容によって異なるため、賃貸借契約書で原状回復義務の範囲について取り決めがされます。基本的な例としては、持ち込んだ備品やパーテーション、設置した電話回線・インターネット回線、壁紙やカーペット、設置した看板などは全て撤去することが明記されています。
ただ、契約内容によってはこれ以外の箇所にも原状回復工事が求められることもあります。想定していた原状回復義務の範囲と、契約時に求められた原状回復義務の範囲との齟齬が原因で、借主と貸主との間でトラブルとなるケースも少なくありません。
トラブルの要因②工事業者の指定・工事費用
オフィスに持ち込んだ備品や飾りの撤去・引っ越し作業とは異なり、回線や内装の撤去を自前で行うのは現実的ではなく、工事業者に依頼して原状回復工事を行うことになります。
この工事をどこの業者に依頼するのかが問題になってきますが、そもそも賃貸借契約書で貸主側(つまりビルオーナー側)が指定する業者以外に依頼できない場合があります。
その場合に気になるのが工事費用です。指定された業者に工事を依頼したとして、提示された見積金額が高いのではないか、気になることもあるでしょう。一般的なオフィスの相場としては、100坪未満の中小規模のオフィスでは坪単価2~5万円程度、100坪以上の大規模オフィスでは坪単価5~10万円程度となります。あくまで参考価格ですが、見積価格が適正かどうかを見分ける上では相場を知っておく必要があるでしょう。
貸主側から特に工事業者について指定されていない場合は、経費削減の為に少しでも安い業者に依頼することもあるでしょう。この際、先述したような原状回復義務の誤認識があると、追加で工事が必要になるという事態に発展しかねず、退去スケジュールの遅れにつながってしまいます。
トラブルを回避するためには
借り物に傷をつけてしまったら弁償しなければならないのは、どんなものでも変わりませんが、長期間利用する物件の場合はそれとは別にルールが設けられています。タバコの匂いが染み付いてしまった、飲み物をこぼしてシミを作ってしまった、引っ越し作業でひっかき傷ができてしまった…といった場合などでは、基本的に原状回復義務が生じます。
また賃貸オフィスにおける原状回復義務については、賃貸借契約書においてその範囲が取り決められています。壁紙やカーペット、電話やインターネットの回線などは、入居前の状態まで戻す必要がありますが、それ以外にも範囲が明確化されていることがあります。工事を依頼する業者に関してもビルオーナー側が指定しているなど、賃貸借契約書に記載がある場合があります。原状回復義務がどこまでなのか、工事業者が指定されているのかは、賃貸借契約書を参照するようにしましょう。
工事業者から提示された見積金額が高すぎていないか、相場を知っておくことも重要です。特に工事業者が指定されていない場合は、工事費用のみならず、賃貸借契約書に明記された原状回復義務と工事範囲が一致しているのかを確認することも重要です。
原状回復工事は着工から終了まで2週間~1か月ほどかかります。オフィスの解約通知を退去予定日の6か月前に行うため、原状回復工事の見積もり依頼から発注、新しいオフィスへの移転を全て終わらせるのは、余裕をもって退去予定日の2か月前までが目安となります。引っ越しが終わっていないと原状回復工事には着工できず、退去予定日までに引き渡しができないと追加の賃料が発生してしまいます。
また、企業の決算期の前後となる3月~4月はオフィスの移転が集中します。混み合う時期は業者に依頼しても予定通りに作業が進まない可能性もあるので、オフィスの解約通知をしたら、速やかに引っ越し業者・工事業者の選定を始める必要があります。オフィスを移転することになった場合は、契約内容の再確認から業者と日程の決定までスピーディに行うようにしましょう。
その他オフィス選びの際の注意すべき点については、オフィス移転時の初期費用や敷金減額サービスなども含め、賃貸オフィスコラムにて掲載しておりますので、下のリンクから是非ご覧ください。
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