賃貸オフィスコラム
防災対策ビル選び 震災・停電時の事業継続性を確保する基準
1. はじめに
地震や停電が発生した際、オフィスビルの防災性能は、従業員の安全だけでなく、事業を再開するまでの時間にも影響します。
そのため、オフィス移転では、立地や賃料、広さに加えて、災害時に重要業務を継続できるかという視点が欠かせません。
BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。
自然災害や停電、通信障害などが発生した際に、重要業務を継続し、停止した場合には早期復旧するための計画です。
BCPを踏まえたビル選定では、耐震性能だけを確認すればよいわけではありません。
非常用電源が何時間使用できるのか、停電時にも給排水設備が動くのか、通信回線を確保できるのかといった設備面まで確認する必要があります。
また、「非常用発電機あり」と記載されていても、テナント専有部の照明やコンセントまで電力が供給されるとは限りません。
設備の有無だけで判断せず、使用できる範囲や時間まで確かめることが、事業停止のリスク軽減につながります。

2.耐震性能は築年数だけで判断しない
防災対策オフィスを選ぶうえで、最初に確認したいのが建物の耐震性能です。
一般的に、新耐震基準は1981年6月1日に施行されました。
ただし、新耐震基準に該当するかどうかは、単純に竣工年月だけで判断できません。
原則として、建築確認を受けた時期を確認する必要があります。
築年数が古い建物でも、耐震診断や耐震改修が実施されている場合があります。
一方で、新耐震基準の建物であっても、建物の管理状況や設備の固定状態によって災害時の被害は異なります。
募集資料に記載された築年月だけで判断せず、耐震診断の有無、改修工事の時期、改修範囲などを管理会社や所有者へ確認することが大切です。
耐震構造、制震構造、免震構造にも、それぞれ異なる特徴があります。
| 構造・方式 | 主な仕組み | 確認したい内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 耐震構造 | 柱や梁、壁の強度で地震力に耐える | 建築確認時期、耐震診断、改修履歴 | 室内の揺れや什器の転倒対策は別途必要 |
| 制震構造 | ダンパーなどで揺れのエネルギーを吸収する | 制震装置の種類、設置位置、点検状況 | 装置の有無だけで被害の程度は判断できない | 免震構造 | 建物と地盤の間に装置を設けて揺れを伝わりにくくする | 免震装置の仕様、点検記録 | 地震時の被害を完全に防ぐものではない | 耐震改修済み | 壁やブレースなどを追加して建物を補強する | 改修時期、施工範囲、改修後の診断結果 | 建物全体の改修か部分的な改修かを確認する |
どの構造であっても、書庫、複合機、パーティション、サーバーラックなどの転倒や移動を完全に防げるわけではありません。
建物の耐震性能とあわせて、オフィス内の什器固定や避難経路の確保も進める必要があります。
3.停電・断水・通信障害への対応力を確認する
震災後も事業を続けるためには、建物が倒壊しないことに加え、電気、水、通信といったインフラを確保できることが重要です。
非常用発電機が設置されているビルでも、給電先が防災設備や共用部に限定されている場合があります。
エレベーター、非常用照明、消防設備などには電力が供給されても、テナント専有部のコンセント、空調、サーバーには供給されない可能性があります。
「72時間運転可能」と説明されている場合も、どの設備を、どの程度の負荷で動かしたときの時間なのかを確認しなければなりません。
燃料の備蓄量だけでなく、災害発生後に燃料を補給できる体制があるかも重要です。
断水への備えでは、受水槽の有無だけで判断しないよう注意が必要です。
受水槽に水が残っていても、停電によって給水ポンプが停止すれば、上層階で水を使用できない場合があります。
トイレについても、給水だけでなく排水設備の状態によって使用が制限される可能性があります。
飲料水の備蓄は、一般的な目安として1人1日3リットル×3日分=1人当たり9リットルを基準に検討できます。
ただし、在館人数や季節、勤務形態によって必要量は変わるため、自社のBCPに合わせた設定が必要です。
4. 停電対策では「発電機の有無」ではなく「専有部へ何時間給電できるか」を見るべきです
停電時の事業継続性は、非常用発電機があるかどうかだけでは判断できません。
重要情報システムを支えるために、バックアップシステム、電源確保、回線の二重化が重要だとしています。
つまり、停電時に照明だけ点くのか、PCや通信機器まで動かせるのか、何時間継続できるのかが、選定時の分岐点です。
公開情報で確認できる例では、大手町パークビルディングは、専有部向けに非常用電源15VA/㎡を提供し、非常時72時間稼働と案内しています。
さらにBCPページでは、2,000kVA×2台に加え、3,000kVA×1台のデュアルフューエル方式ガスタービン発電機を採用し、すべてのビル入口に高さ1mの防潮板を備えるとされています。
停電・浸水・長周期地震動を分けて確認できるビルは、BCP視点では評価しやすい物件です。
| 確認項目 | ビル側に確認する内容 | 数値で確認したい基準 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|---|
| 非常用電源 | 専有部への給電範囲、燃料補給体制 | 運転時間、供給容量 | 発電機があっても専有部へ給電されない場合がある |
| 給排水 | 停電時の給水方法、トイレの使用可否 | 貯水量、対応人数、対応日数 | 水が残っていてもポンプ停止で使用できない場合がある | 通信回線 | 回線の引込経路、建物内の配線経路 | 回線数、目標復旧時間 | 2回線でも同じ経路なら同時停止する可能性がある | データ保全 | 遠隔地やクラウドへのバックアップ | 保存頻度、保存世代数 | 保存しているだけでなく復元できるかの確認が必要 | 防災備蓄 | 水、食料、携帯トイレの対象範囲 | 対応人数、備蓄日数 | ビル側の備蓄をテナントが利用できるとは限らない |
通信対策では、回線を2本契約するだけで十分とはいえません。
同じ管路や建物内設備を共用している場合、1か所の障害によって複数回線が同時に停止する可能性があります。
通信会社だけでなく、引込経路が分かれているかまで確認すると、より実効性の高い対策になります。
4.自社の事業継続計画に合わせて優先順位を決める
防災性能の高いオフィスを選ぶには、まず自社が災害時に継続すべき業務を明確にする必要があります。
すべての業務を通常どおり続けようとすると、必要な設備やコストが過大になりやすいためです。
たとえば、顧客対応、決済、受発注、システム管理など、停止による影響が大きい業務を絞り込みます。
そのうえで、何時間以内に復旧させるのか、何人いれば最低限の業務を続けられるのかを決めます。
このときに設定したいのが、RTOとRPOです。RTOは「目標復旧時間」を意味し、重要業務を何時間以内に復旧させるかを示します。
RPOは「目標復旧時点」を意味し、障害発生時に何時間前までのデータを復元できればよいかを示す指標です。
たとえば、重要業務のRTOを24時間、RPOを1時間と設定した場合、24時間以内に業務を再開できる体制と、少なくとも1時間ごとにデータを保存できる仕組みが必要です。
この数値は一律に決まるものではなく、事業内容や取引先との契約、停止によって生じる損失を踏まえて企業ごとに設定します。
ビル側に十分な非常用電源がない場合でも、ノートパソコン、モバイル回線、蓄電池、クラウドサービス、在宅勤務、代替拠点などを組み合わせれば、重要業務を継続できる可能性があります。
ビル設備だけに依存せず、建物側の対策と自社側の対策を組み合わせることが、現実的なリスク軽減につながります。
内見時には、避難経路や非常階段、防災センターの運営体制も確認しましょう。
夜間や休日の連絡方法、防災訓練の実施状況、災害時の情報提供方法などは、通常の募集図面だけでは分からないことがあります。
必要に応じて管理会社へ質問し、資料や館内規則を確認することが重要です。
5.まとめ
BCPを意識したビル選定では、耐震性能だけでなく、停電、断水、通信障害が発生した際に、どの業務をどの程度続けられるかまで確認する必要があります。
特に重要なのは、耐震基準や耐震改修の内容、非常用電源の運転時間と給電範囲、停電時の給排水、通信回線の経路、管理会社の災害対応体制です。
「新耐震」「非常用発電機あり」といった表示だけで判断せず、具体的な数値と運用方法を確認しましょう。
防災性能を高めるほど、賃料や管理費などの負担が増える場合もあります。
すべてをビル設備で解決しようとするのではなく、自社の重要業務、目標復旧時間、必要人数を整理し、必要な条件に優先順位を付けることが大切です。
株式会社TFCでは、企業ごとの事業継続計画を踏まえ、耐震性能や非常用設備、通信環境などを比較しながらオフィス探しをサポートしています。
BCPビル選定の条件整理や移転先の比較にお困りの場合は、お気軽にご相談ください。
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【執筆者プロフィール】
株式会社TFC オフィス営業担当
宅地建物取引士 下田
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