賃貸オフィスコラム
戦略的ダウンサイジング、固定費を削り、生産性を下げない移転の極意
はじめに
2026年4月時点で東京都心5区の平均賃料は22,454円/坪、平均空室率は2.20%です。
一方、雇用型テレワーカーの割合は全国で25.2%まで定着しています。
今の移転は、単純に面積を減らすのではなく、余っている席を減らし、成果が出る場を残すことが成功の分かれ目です。
1. なぜ今、ダウンサイジングが経営課題になっているのか

オフィスのダウンサイジングが注目される最大の理由は、賃料が高止まりする中で、使い切れていない面積を抱える企業が増えているからです。
東京都心5区の平均賃料は2026年4月時点で22,454円/坪、平均空室率は2.20%と低水準です。
つまり、今のオフィス市場は「広い面積を安く借り続けられる」環境ではなく、不要な面積を持つほど固定費負担が重くなりやすい状況です。
同時に、働き方も変わりました。
国土交通省によると、令和7年度調査では、雇用型テレワーカーの割合は全国で25.2%、直近1年間のテレワーク実施率は16.8%です。
テレワークが完全に特別な働き方ではなくなった今、毎日全員が同時に出社する前提でオフィスを持ち続ける必要性は、以前より小さくなっています。
ただし、ここで注意したいのは、面積を減らせば自動的に良い移転になるわけではないことです。内閣官房内閣人事局の「オフィス改革ガイドブック」では、オフィス改革は単にきれいな空間に変えることではなく、目指す働き方を実現するための手法だと整理されています。つまり、ダウンサイジングの成否は「何坪減らしたか」ではなく、「どんな働き方を残したか」で決まります。
2. 先に減らすべきは「面積」ではなく「余剰席」
一般的に最初にやりがちなのは、「今より何坪減らせるか」から考えることです。
ですが、正しい順番は逆で、まず見るべきは、実際に何席が必要なのかです。
たとえば、社員100人の会社でも、毎日の平均出社が60人前後の場合、同時在席のピークが70人未満なら、100席を維持する必要はないかもしれません。
逆に、出社人数は少なくても、来客対応、WEB会議、営業会議、集中作業が多ければ、席数以外のスペースは削りすぎない方がよいケースもあります。
つまり、ダウンサイジングは「人数」ではなく、出社実態と業務内容で決めるべきなのです。
内閣官房のガイドブックで、必要なスペース不足、WEB会議場所不足、レイアウト変更の負担などが、従来オフィスの典型的な課題として挙げられています。
面積だけを減らして会議室や集中スペースまで削ると、固定費は下がっても、かえって働きにくくなる可能性があります。
| 確認項目 | 何を見ればよいか | 初心者向けの見方 | 試算例 |
|---|---|---|---|
| 平均出社人数 | 1か月の平均出社人数 | 普段どれだけ席が使われているかを見る | 100人中60人出社 |
| 固定席の実利用率 | 固定席が実際に何席使われているか | 火曜午後に68人 | |
| 使われない応接・待合 | 減らしやすい | 来客頻度に対して過剰な場合がある | 来客数に合わせて最適化 |
| WEB会議用個室・ブース | 減らしにくい | ハイブリッド勤務では需要が高い | むしろ不足しやすいので確保優先 |
| 集中作業スペース | 減らしにくい | 席数削減後ほど集中場所が重要になる | オープン席だけにしない |
| 打合せ・共創スペース | 減らしにくい | 出社価値を高める重要機能 | 出社時に使う目的空間として残す |
3. 生産性を下げない会社は、何を残しているのか
生産性を下げずにオフィスを縮小できる会社には共通点があります。
それは、減らす場所と、むしろ強化する場所を分けていることです。
こちらも内閣官房のガイドブックで、業務に応じて席を選べるABW、WEB会議席、交流スペース、集中できる場などの整備が、オフィス改革の具体策として挙げられています。
つまり、これからのオフィスは「全員分の机を並べる場所」ではなく、「出社したときに成果を出しやすい場所」に変えることが重要です。
さらに同ガイドブックでは、法政大学の研究として、オフィス環境への評価が高いほど作業効率は向上し、環境の悪いオフィスは、環境の良いオフィスと比べて年間一人当たり約100万円多く経済損失が生じると紹介されています。
つまり、コスト削減だけを優先して、狭い・暗い・会議しづらい・集中しづらい環境にすると、賃料削減分以上に生産性を失う可能性があります。
減らしてよい面積と、減らしてはいけない面積
| 項目 | 基本方針 | 理由 | ダウンサイジング時の考え方 |
|---|---|---|---|
| 余剰固定席 | 減らしやすい | テレワーク定着で未使用席が出やすい | 固定席を減らし、共有席化を検討 |
| 過剰な書庫・紙保管 | 減らしやすい | 紙保管は面積を大きく使う | 文書電子化と保管ルール見直しを先行 |
| 使われない応接・待合 | 減らしやすい | 来客頻度に対して過剰な場合がある | 来客数に合わせて最適化 |
| WEB会議用個室・ブース | 減らしにくい | ハイブリッド勤務では需要が高い | むしろ不足しやすいので確保優先 |
| 集中作業スペース | 減らしにくい | 席数削減後ほど集中場所が重要になる | オープン席だけにしない |
| 打合せ・共創スペース | 減らしにくい | 出社価値を高める重要機能 | 出社時に使う目的空間として残す |
オフィス改革では、業務に応じて選べる席、WEB会議席、交流スペースなどを用意することが有効と整理されています。
単純な席数カットではなく、「出社したくなる理由」を残すことが、生産性維持のポイントです。
4. 失敗しない移転の進め方は「縮小」ではなく「再設計」
戦略的ダウンサイジングで失敗しないためには、移転を「縮小プロジェクト」ではなく、働き方の再設計プロジェクトとして進めることが大切です。
進め方としては、まず出社率、在席ピーク、会議室利用、紙保管量を把握します。
次に、「何のために出社するのか」を定義します。
たとえば、営業の対面商談、チーム会議、採用面接、集中作業など、出社理由が見えれば、残すべきスペースも明確になります。
その上で、固定席を減らし、共有席、会議室、WEB会議ブース、集中席の配分を決めていく流れが初心者にもわかりやすい進め方です。
もう一つ重要なのは、一度に削りすぎないことです。
都心5区のオフィス空室率は2.20%と低く、条件の良い面積を後から取り戻しにくい市場です。
いったん縮小した後に「会議室が足りない」「採用面接の場がない」「出社日に席が足りない」となっても、すぐに増床できるとは限りません。
だからこそ、移転前に実測データを取り、少し余裕を持った設計にしておく方が安全です。
5. まとめ:固定費削減に成功する会社は、「削る面積」ではなく「残す価値」を決めている
戦略的ダウンサイジングの本質は、オフィスを小さくすることではありません。
余っている面積を減らし、成果が出る場所に再配分することです。
今のオフィス市場は、賃料が高止まりし、空室率も低い一方で、テレワークは一定水準で定着しています。
この環境では、全員分の固定席を持ち続けるより、出社実態に合わせて席数を最適化し、会議、集中、WEB会議、共創の場を整える方が合理的です。
そして、生産性を下げないために最も大切なのは、単なるコストカット発想で終わらせないことです。
オフィスはコストであると同時に、採用、定着、コミュニケーション、意思決定、創造性を支える経営資産でもあります。固定費を削るだけでなく、「出社する価値があるオフィス」を残せた会社ほど、ダウンサイジングは成功しやすくなります。
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【執筆者プロフィール】
株式会社TFC オフィス仲介営業担当
宅地建物取引士 下田
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