新宿街角コラム
コロナ禍でブーム?副都心の高層ビルで相次ぐファンド会社へ売却の背景
コロナ禍以降、テレワークの定着でオフィスビルの空室率が上昇していますが、これはビルを保有する会社にとっては、テナントからの収益が減少するため、痛手となっています。そんな中、保有するビルを投資ファンドへ売却し、ビルをファンド化する波が副都心エリアに来ています。その背景には一体何があるのでしょうか?
副都心エリアで相次ぐ高層ビル売却の動き
新宿駅南口から徒歩4分のところに位置する「JR南新宿ビル」(画像上)。オフィス主体のこの高層複合ビルは、JR東日本が開発し保有していたものでしたが、2021年12月にグループ会社のJR東日本不動産投資顧問が組成するファンドに売却。これにより、JR東日本が掲げる「回転型ビジネスモデル」を本格的に始動させ、不動産ファンドを新たな事業として推進していく考えで、グループ全体の成長と資金効率の向上、ひいては投資エリアの不動産価値の最大化による地域づくりへの貢献を図ります。
京王線 初台駅出てすぐの甲州街道沿いにある「東京オペラシティ」では、NTT都市開発が同ビルの共有持分約23.8%を、グループ会社であるNTT都市開発リート投資法人に220億円で2021年11月に売却。他に、同ビルの共有持分約31.3%は三菱地所の子会社であるファンド会社のジャパンリアルエステイト投資法人が保有しています。
青梅街道と新宿税務署通りの角にある「新宿フロントタワー」の共有持分のうち、アジア最大規模を誇るシンガポールの不動産会社キャピタランドの共有持分に当たる20%が、2021年11月に不動産ファンド会社へ売却。この不動産ファンド会社は大成建設や芙蓉総合リース、小田急不動産や京急などが出資しているほか、キャピタランドも4.98%を出資している上、キャピタランドが日本に初めて設立した私募ファンド会社であることから、キャピタランドが信託受益権(テナント収入などの権利)を複数企業と共有し始めたとも言えるでしょう。
さらに、東京都庁にほど近い場所に位置する「新宿三井ビルディング」(画像下)も三井不動産が長年保有していましたが、2021年1月に、株式の46%を保有する日本ビルファンド投資法人に1700億円で売却。大手不動産会社でも自社が出資するファンド会社へ売却する動きが相次いでいます。
他にも、渋谷では2021年11月、フードサービス事業を展開するシダックスが、本社ビルに隣接し公園通り沿いに建つ「ニトリ渋谷公園通り店」が入居するビル(旧・渋谷シダックスビレッジ)を34.5億円で売却。このビルは元々シダックスが2017年まで保有しており、売却の際に付与していた優先交渉権を行使する形で買戻し、即日売却する形となりました。他にも、渋谷駅南東に位置し東京建物が保有する「東京建物東渋谷ビル」が2022年1月、東京建物がメインスポンサーとなっている日本プライムリアリティ投資法人に113億円で売却されました。
表参道でも、駅南西の青山通り沿い、青山学院大学の向かいにある「青山オーバルビル」では2021年12月、信託受益権のうち準共有持分割合47.5%を、東急リアル・エステート投資法人が186億円で取得しました。
そんな中、プリンスホテルを運営する西武ホールディングスは保有するホテル・レジャー関連施設のうち31施設をシンガポールのファンド会社GICへ2022年9月に売却すると発表しました。コロナ禍で経営が厳しいホテル・レジャー関連施設の半数近くが売却され、売却額は約1500億円に上る一方、施設運営は今後も西武グループが行うとしています。この売却施設の中には、池袋駅東口にあるサンシャインシティプリンスホテルは含まれ、将来的な再開発を視野に入れている西武新宿駅前の新宿プリンスホテルは除外されました。
自社ブランドへの売却も…ファンドの投資が加速する背景
新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大が見られた2020年、「コロナ・ショック」とも形容される景気後退が見られました。一方で2021年には、ワクチン開発や半導体不足などで、終息後(アフターコロナ)の景気回復を見据えた設備投資が世界的に加速し、リーマンショックなどに比較すると早くも回復の動きがみられています。
投資家の視点ではどうでしょうか。コロナ禍以降、「買い控え」や「不要不急の外出自粛」などで、嗜好品の購入や旅行を控える傾向が強まったことから、消費者の支出が減り貯蓄が増えている一方、変異株の流行で収束の見通しが立たなくなったコロナ禍や、減少する年金受給額などで老後の資産計画が不透明になるなど、今後の将来性を不安視する人々の危機感が強まり、若者を中心に「貯蓄を元手にさらに資産を増やす」傾向が強まりました。
また、2019年10月の消費税増税以降急速に普及したキャッシュレス決済(クレジットカードやQRコード決済、電子マネー決済など)が、コロナ禍では特に接触機会が減らせることから注目されるようになり、2020年6月に終了した国主体のポイント還元事業の他、各社独自のポイント還元サービスがあることから、「ポイ活」とも称されるほど、キャッシュレス決済で貯めたポイントを現金代わりに活用する動きが流行、買い物や公共料金の支払いに充てられる他、ポイントで投資を行うサービスも急増するようになったことも、投資熱に拍車をかけた一因ではないかと考えられています。
大手不動産会社が、自社が投資する不動産ファンドに売却することは珍しくないことでしたが、加速する投資熱を逃すまいと、先述したJR東日本の例にもあるように、新たにファンド事業に本格参入する企業も見られるようになりました。副都心エリアに多く建ち並ぶ高層ビルは、今後も保有企業とファンド会社の間で高値で取引される動きが相次ぎそうです。
投資熱に拍車をかけるのは長引くコロナ禍
長引くコロナ禍で、生活環境が一変したこともあって、オフィスを保有する会社が不動産ファンドへ売却する動きがみられるようになりました。
テレワークの普及などでオフィスの必要性が見直されるようになってから、移転や減床で空室率が増えテナント収入が減ってしまったオフィスビルを保有する会社と、巣ごもり需要で貯蓄が増えた一方、長引くコロナ禍や年金問題などで将来性を不安視する投資家により加速する投資熱を受けた不動産ファンドとで利害関係が一致、これは副都心エリアの高層ビル群も例外ではないようです。
変異株の流行で感染終息が見通せなくなったこともあり、コロナ禍に適応した生活環境を反映したとも言える現在の投資ブームが今後もしばらく続くとの見通しが、不動産ファンドの後押しになっています。副都心エリアの高層ビルが相次いで売買されたこともあり、今後も周辺ビルを中心に同様の動きがみられるのではないかと思われます。空室を多く抱えるビルがどうなるか、今後も注目していきます。(副都心エリアの最新のビル空室率についてはこちら→新宿と渋谷で見られた違い…副都心エリアのビル空室率の現状)
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