新宿街角コラム
地域住民を繋ぐ拠点へ…各地に見る団地の振興策のヒント
「団地」と聞いて、何を想像するでしょうか?
戦後復興や高度経済成長期に、高まる需要に対し不足した住宅を補うため、所謂ニュータウンなどに相次いで建てられた中高層の集合住宅の建物群のことで、「耳をすませば」「団地ともお」「クロユリ団地」などの作品の舞台にもなったことや、「団地族」「団地妻」といった関連用語も生まれたことから、ある程度のイメージは抱いている方が多いのではないでしょうか。
今となっては、住民の核家族化のみならず高齢化、建物の老朽化やそれに伴う治安の悪化といった、一言で言ってしまうと「古臭い」イメージが団地には付きまとっています。一部の団地では建て替えを行うことで、老朽化とバリアフリー化の両方を解決した一方、建て替え後の名称から「団地」の呼称が消えるなど、「団地=古臭い」というイメージの払拭に一役買っているとは言い難い状況です。
その上、住民の高齢化に関しては解消されておらず、むしろ世帯主の子や孫に当たる若年層の流出や、伴侶に先立たれた高齢者がその後孤独死しているのが発見されるなど、新たな問題も発生するようになりました。
課題が山積している団地。キーワードになるのは「地域住民の交流」です。
敷地内に「シェアキッチン」が誕生した埼玉の団地の例
※さいたま市 報道発表資料より引用
埼玉県さいたま市桜区、JR武蔵野線の西浦和駅の前にある「田島団地」。全52棟を擁するこの団地は、UR都市機構のグループ会社である日本総合住生活株式会社が1965(昭和40)年から60年弱に渡り維持・管理を行ってきました。そんな日本総合住生活が近年力を入れているのが、「ハードとソフトの両面から人と人とを繋ぐ機会を作ること」。管理している団地において、幅広い世代の人々がより便利に暮らせるような住空間の創出に取り組んでいます。
そしてこの田島団地でも今年8月末日、団地敷地の北端、銀行の支店だった場所に、シェアキッチン「団地キッチン 田島」が誕生しました。料理教室などのイベントにも使用可能なシェアキッチンスペースの他、カフェとブルワリーも併設され、食を通じて人とつながり、「作る・食べる・知る」を楽しめる施設としています。
施設内でクラフトビールを醸造するブルワリーは10月のオープンを予定。醸造過程をワークショップ化することで、団地の住民のみならず地域住民からアイデアを募り、地域交流の拠点にしたい考えです。
元々お酒が好きな人が多い田島団地。地域の特産品や特色を活かしたオリジナルビールを発明する過程が、地域を知ることに繋がると考え、地域住民からアイデアを募るワークショップとすることになりました。ただビールを売るだけでは生まれない会話をもとに、人と人がつながり、地域を知る、そして地域を賑わせるきっかけになればと担当者は語っています。
リノベーションで「本がテーマのシェアハウス」が誕生した足立区の団地の例
※読む団地 J Verde 大谷田 公式ホームページより引用
東京都足立区、JR常磐線各駅停車の亀有駅からバスで北へ3分のところにある「大谷田1丁目団地」。ここも日本総合住生活が1977(昭和52)年から40年以上維持・管理している団地です。
この団地の7号棟の1階部分に2020年、本をテーマにしたシェアハウス「『読む団地』 J Verde(ジェイヴェルデ) 大谷田」がオープンしました。たくさんの本に囲まれて暮らしたい、趣味の仲間とつながりたい、といった様々な本好きの願いを叶えてくれるシェアハウスには、約1,000冊の蔵書が並び1人でもグループでも心地よく過ごせるスペース「ブックリビング」、入居者1人1人のお気に入りの本が感想カードとともに本棚に並べられた「マイブック図書館」、キッチンを備え付け地域住民にも開放されていることから本にあるレシピをもとに料理会などにも利用可能な「コミュニティラウンジ」があります。
幅広い世代が暮らす大谷田1丁目団地に若者を呼び込むという目的で始まったプロジェクト。しかし当初、シェアハウス入居者と団地の入居者、地域住民との間でなかなか交流が生まれないという課題がありました。そこで思い立ったのが、先述した「マイブック図書館」のような、自分のお気に入りの本を持ち寄って一言感想を書いたカードと一緒に置いておく交換会や、「コミュニティラウンジ」にあるキッチンを用いた料理会や手芸会。特にコミュニティラウンジでは季節のイベントやワークショップを開くことで、シェアハウス入居者と団地の入居者のみならず、地域住民との交流の場を創出しています。
限界集落のような団地も巻き返しを図る
建物の老朽化や住民の高齢化、それに伴う諸問題が発生している団地。意外なことに、課題が山積し各メディアの槍玉にも挙げられるような団地が、高層ビルが乱立する東京都心にもありました。
新宿区戸山にある「戸山ハイツ」。戦後の住宅不足を補うため、陸軍の土地だったこの場所に約1,000戸の木造平屋建て住居が建ったのをルーツに持ち、現在の高層建築物になったのは1970年代のこと。戸山ハイツも例に漏れず築50年前後の老朽化物件です。
戸山ハイツが建てられた経緯もあって、現住しているのは竣工当時から暮らし続けている高齢者ばかりで、そのほとんどが商店などを営む低所得者層。路上飲みや立小便、路上に寝てしまう人や無許可の露天商がいるなど、まるで限界集落のような姿を摩天楼が立ち並ぶ新宿の中心部に残しています。
コロナ禍以降は、路上飲みのみならず、狭いエレベーターや集会所などでの感染リスクが指摘されるようになったことから、地域住民同士の接点が失われつつある一方、首都直下地震や激甚化する台風災害のリスクを鑑み、非常時の助け合いや役割分担を考えると、希薄になってしまった住民同士の繋がりが重要視されるようになりました。
2018年5月から4号棟のデイサービスセンター「戸山いつきの杜」にて、毎週土曜日に新宿区の事業として運営されている住民組織「戸山未来・あうねっと」。高齢化する住民同士の繋がりを結び直すために活動しており、東京家政大学女性未来研究所とNPO法人による共同研究から始まった同活動は、団地内のニーズを探る全戸アンケート調査、住民参加のワークショップにとどまらず、集いの場をつくる実践「カフェあうねっと」へと発展しました。介護や認知症を予防する効果のある運動を中心に、カフェタイムなども設けられ、同じ棟に住みながら挨拶すらしたことのない高齢者同士の交流の創出に一役買うなど、具体的な住民の交流が進められてきました。
住民の高齢化や建物の老朽化、延いては治安や防災管理の観点で課題が山積している団地。田島団地や大谷田1丁目団地の例に見られるように、地域交流の拠点として再整備することで、住民同士の繋がりを強化し、地域振興のみならず治安の改善や防災強化に直結するのではないでしょうか。コロナ禍で人とのつながりが希薄になる中、地域住民の交流が重要視されるようになっています。
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